小脳プルキンエ細胞には登上線維と平行線維の2種類の興奮性シナプスがあり、前者は樹状突起の細胞体近位部に後者が樹状突起の遠位部にと、分節化した分布を呈している。特徴的なシナプス構築を形成するに際し、2種類の興奮性入力線維の間で樹状突起の支配領域をめぐるシナプス競合作用が重要な役割を果たしていると仮定されてきた。そこで、本研究では、シナプス競合作用、発生過程でのシナプス競合作用機序の詳細を調べた。 第一に、成体でのシナプス競合による作用を調べるため、興奮性入力線維である平行線維、登上線維、および両者に障害を加え、それぞれの場合について、プルキンエ細胞上のシナプス構築を調べた。平行線維を障害させた場合、それらの自由スパインがほとんど消失し、残存する平行線維が部位選択的にシナプスを形成していた。登上線維を障害させた場合、その支配領域だった部位におけるスパイン密度は不変で、形成された平行線維シナプスは20%以下に留まり、他は自由スパインとして残存していた。、それに対し、両者の入力線維に障害を加えた場合、近位部のスパイン密度が上昇するとともに樹状突起の全領域で自由スパインが残存し、平行線維シナプスも樹状突起の全部位で形成されていた。以上より、成体のスパインは入力線維に対する選択性が高く、また、興奮性入力線維は障害された一方の興奮性入力線維に対し、適切なシナプス形成を援護し、できあがったシナプス構築を修復、保持する方向に働く傾向があることを示唆した。また、興奮性入力量の減少は、プルキンエ細胞の自由スパインの発現を促進させ、異種あるいは同種にかかわらず興奮性入力の再開は自由スパインを退縮させる傾向を示した。 第二に、幼若期に、平行線維(POにて>または登上線維(P7にて)に障害を加え、生後7日、9日、12日、15日のプルキンエ細胞のシナプス構築を観察した。現在、それらについて解析中である。
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