研究概要 |
海馬歯状回の顆粒細胞層を形成する細胞は、胎生期の大脳皮質内側の脳室層に由来する。増殖細胞はそこから内側方向(将来の海馬采の背側)に移動した後、移動方向を背側に変えて歯状回原基を形成する。このようにしてラットでは生後5日目ぐらいまでにはU字型の顆粒細胞層の形ができあがる。しかし、このときには、まだ顆粒細胞層の厚さは成体に比べて薄い。また、この時点では増殖細胞がまだ歯状回門に残っており、その増殖細胞から分化したニューロンが顆粒細胞層の内側に多数追加されている。このようにして顆粒細胞層の厚さは生後に増していくが、発達が進むと、歯状回門の増殖細胞は顆粒細胞層と歯状回門の境界部である顆粒細胞下帯に限定されていく。そして成体型のニューロン新生に移行していく。生後の歯状回門に存在する増殖細胞の性質を調べたところ、アストロサイトのマーカー分子(S100b, GFAP, GLAST)を発現していた。ニューロンのマーカーであるHuを発現するものは少なかった。このアストロサイト様増殖細胞を、チミジン類似物質のBrdU及び緑色蛍光タンパク(GFP)遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターによって標識し、その後の発生運命を調べたところ、生後の歯状回に存在するアストロサイト様増殖細胞はニューロン(顆粒細胞)に分化することが明らかになった。また、一部は放射状グリア様の細胞になった。これらの細胞は、いずれも歯状回門から顆粒細胞層に移動した。一方、成体の増殖性神経前駆細胞は、生後初期の増殖性前駆細胞とは異なり、ほとんどの細胞がHuを発現していた。また、顆粒細胞下帯でクラスターを形成し、そこから主に水平方向に移動していた。以上の結果は、生後初期と成体期では増殖性神経前駆細胞の性質、増殖様式、移動様式が異なることを示している。
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