研究課題
基盤研究(C)
海馬の顆粒細胞は、成体になっても新生され続けている。海馬の神経回路の中で、顆粒細胞は大脳新皮質連合野からの入力情報を最初に受け取る役目をしている。このような位置にある顆粒細胞が毎日新生され、新しい神経回路を海馬に付け加えるという現象は、海馬が記憶や学習の成立と関係が深いことを考えると大変興味深い。本研究では、BrdU(チミジン類似物質)、緑色蛍光タンパク(EGFP)遺伝子発現レトロウイルス、細胞増殖マーカーKi67等を用いて、顆粒細胞層内側に存在する神経前駆細胞の、増殖・分化・移動の様式を解析した。また、海馬切片培養法を用いて、細胞の移動を観察した。増殖性神経前駆細胞の多くはHu(ニューロンマーカー)に陽性であった。また、分裂終了後のニューロブラストはPSA(細胞接着分子NCAMの糖鎖、未熟ニューロンのマーカー)陽性であった。これらの細胞はクラスターを形成していた。クラスター内の細胞はβ-カテニン/N-cadherinを特異的に発現していた。PSA陽性ニューロブラスがクラスターから抜け出すときは、水平な突起を伸ばしながら、水平方向に移動した。その後水平な突起を退縮させ、最終的に垂直な樹状突起を形成した。以上の結果は、増殖性神経前駆細胞の増殖・分化が起こるクラスター内では、β-カテニン/N-cadherinを介した細胞間相互作用が働く可能性を示唆している。また、PSAはN-cadherinの接着性を低下させると考えられているので、PSAはβ-カテニン/N-cadherin陽性クラスター細胞が、ニューロブラストとなって移動するときに関与する可能性が考えられる。
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