GnRHの受容体の脳内分布を調べるために必要な抗体作成が年度末に間に合わなかったため、今年度は研究目的のうち「終神経への入力回路の進化」を前倒して、これを中心課題にすえて研究を行った。 1)コイ科魚類 コイ科魚類は、代表者が入力回路を既に報告しているスズキ型魚類よりも古くに分化した、比較的"原始的"な魚類である。終神経GnRH細胞群の近傍にトレーサーを投与する実験を多数行なった結果、コイ科魚類では、スズキ型魚類で発達している被蓋-終神経核(感覚情報を終神経GnRH細胞に伝える)は存在しないことが示唆された。その一方で、間脳の糸球体前核群と呼ばれる部位(各種感覚を中継することが代表者らの研究でわかってきている)から、終神経GnRH細胞群に情報が送られることを示唆するデータが得られた(現在、このデータを含む論文を投稿中)。 2)メダカ メダカはスズキ型魚類には属さないがかなり近縁の種である。メダカにおいては、終神経GnRH細胞群の近傍にトレーサーを投与すると間脳と中脳被蓋の境界領域に逆行性標識細胞群が出現した。この細胞群を含む領域にトレーサーを投与すると、終神経GnRH細胞群に順行性の標識終末が見られた。すなわち、メダカには被蓋-終神経核に相当する神経核が存在することが明らかとなった。 上記の今年度の成果によって、以下の2つが明らかとなったと言える。 (1)少なくともコイ科魚類が進化した時点で、すでに感覚情報を終神経GnRH細胞群へと伝える神経路は存在していたらしい。 (2)スズキ型魚類およびメダカの仲間を含む魚類(棘鰭類)が出現する時点あるいはその前に、被蓋-終神経核が分化/進化した。 コイ科魚類では、被蓋-終神経核に相当するニューロンが未分化な状態で糸球体前核に混在している可能性があり、当初予定していたよりも研究対象を広げて、さらに"原始的"な魚類でも研究することは有意義と思われる。
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