研究概要 |
昨年度に引き続き、脳機能発達に対する様々な化学物質の影響を評価できる独自のアレイを用いて本モデルラットの生後20,30,40,50日における海馬のcDNAを用いたDNAマイクロアレイを施行した。ここから得られた膨大なデータを解析した結果、以下のような点につき明らかにすることができた。 1.サリドマイド(THA)暴露群では、主にP20,P30に大きな差異が正常コントロール群に比して見られ、P40,50ではその差異が減少し、正常コントロールの値に近づく傾向が見られた。P20-30で特に発現が異なる遺伝子としては、伝達物質放出機構に関する遺伝子群の中のSNAP25、synaptophysin、synapsinI、neurogranin、そして細胞骨格に関わる遺伝子GAP43などであり、いずれも正常に比べ遅い時期まで発現量の上昇が見られた。ただし、P40以降には正常コントロールと同程度の発現が観察された。このことからTHA群においては、正常コントロールに比してシナプス形成の開始が遅延、あるいは遅くまで形成していることが予測された。 2.バルプロ酸ナトリウム(VPA)暴露群では、THAのような生後比較的早期に発現が上昇することは観察されなかった。しかし、P40以降はむしろSNAREタンパク群遺伝子、synapsinI、Synaptotagmin、neurograninなどがほとんど正常コントロールに比べて発現の低下をみており、特にP30以降にシナプスが減少していく、あるいは正常のシナプス形成が起こっていないという可能性が予測された。 これらのことより、自閉症モデルラットで胎生期に暴露するTHAとVPAではその薬理作用も催奇形性の機序も異なるものの、いずれも正常コントロールと明らかに異なる生後早期のシナプス形成機構がその本態の一部であることが示唆された。
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