本研究では、新規GTPase活性化タンパク質SPAL-1の生理機能や、脳高次機能の制御におけるNMDA受容体およびPSD-95とSPAL-1との相互作用の意義を個体レベルで明らかにするため、平成18年度も引き続きSPAL-1欠損マウスの解析を行い、以下の成果を得た。 1)SPAL-1欠損マウスの詳細な電気生理学的な解析を行った。海馬スライスを用いたLTPの解析により、SPAL-1欠損マウスで海馬CA1領域のLTPが増大していることを見出した。(東京大学医科学研究所神経ネットワーク分野・真鍋俊也教授との共同研究) 2)SPAL-1欠損マウスの行動実験を行った。Morris水迷路を用いたhidden platformテストおよびプローブテスト、および恐怖条件付けにおいて野生型マウスに比べて顕著な学習能力の低下を示すことを見出し、海馬および扁桃体における機能障害が示唆された。脳の細胞構成や構造に発生上の異常は認められないことから、この学習障害は脳の器質的な異常に起因するのではなく、神経細胞内のシグナル伝達などの機能的な異常によるものであると考えられた。 3)SPAL-1欠損マウスを用いて瞬目反射条件付けを解析した。その結果、小脳および脳幹に加えて海馬にも依存するtrace paradigmに学習障害が起こることを見出し、2)の結果を裏付ける結果を得た。一方、小脳および脳幹に依存するdelay paradigmの瞬目反射には異常が見られず、小脳や脳幹におけるSPAL-1の発現が相対的に少ないことと一致する結果を得た。さらに、瞬目反射条件付けにはNMDA受容体が関係することが知られているので、NMDA受容体とSPAL-1とが物理的に複合体を形成しているだけでなく、機能的にも関連していることが示唆された。(東京大学大学院薬学系研究科神経生物物理学教室・桐野豊教授との共同研究) 4)上記の他、多動性や驚愕反応の増大など、ヒトの精神疾患でも観察される表現型もみられた。
|