研究概要 |
本研究は、インド生薬Ashwagandhaから単離した化合物であるwithanolide A(WL-A), withanoside IV(WS-4),withanoside VI(WS-6)が、障害を受けた脳内において、軸索と樹状突起を伸展させシナプス密度を正常レベルにまで回復させるという、これまでの発見に基づき、WL-A, WS-4,WS-6が神経回路網を再形成する抗痴呆薬であることをさらに検証することとと、その作用機序を分子的に明らかにすることを目的としている。 本年度は、まずWS-4をマウスに経口投与した場合の活性本体を同定した。WS-4の構造を考えた場合、腸内細菌によりdeglycosylationされたものが活性本体として脳内に作用する可能性が考えられたため、WS-4経口投与後のマウスの血清中のWS-4の代謝物をHPLCで検出しさらにLC/MS分析を行った。その結果、経口投与10分後からすでに血清中にWS-4そのものは検出されず、3位の糖鎖が加水分解されたsominoneと、未同定ではあるがsominoneのmonohydroxyl体と推測される1つの化合物が検出された。Sominoneの活性を検討するため、amyloid β(25-35)(=Aβ(25-35))を処置して軸索および樹状突起を萎縮させたラット大脳皮質神経細胞にsominoneを処置した。Sominone処置により用量依存的に、軸索と樹状突起の再伸展作用が認められた。また、Aβ(25-35)処置によって減少したシナプス密度が、sominone処置により正常レベル程度に回復したことから、経口投与時のWS-4の活性本体がsominoneであることが示された。 当初の計画では、培養ラット大脳皮質神経細胞を用いて、被リン酸化タンパク質を網羅的に同定することで細胞内シグナル伝達系をたどる方法により化合物の作用機序を探る方針であった。しかし、本年度同時に進行中の脊髄損傷マウスにおけるWS-4の作用に関する研究結果により、WS-4(つまりはsominone)が神経細胞だけでなく、ミエリンを形成するグリア系の細胞にも作用し、神経細胞とミエリンのinteractionを調節している可能性が示唆された。この結果により、本研究の化合物に関しては、胎児の培養細胞を用いた検討ではミエリン化や神経回路構造が生体の状態を必ずしも再現はしておらず作用機序の解析が一面的になってしまう可能性がありため、作用の多面性を本質的に解明するためには動物レベルでの検討がより適していることが示唆された。次年度からの本研究では、特に活性本体が明らかとなったWS-4に関して、中枢神経系の回路網再形成における作用機序を、行動学的、組織的なアプローチが可能な動物レベルで分子的に明らかにする方針で、目的を達成する予定である。
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