研究概要 |
脊髄損傷に対するwithanoside IV経口投与の効果を検討した。脊髄を圧挫したマウス(ddY,6週齢,オス)に、損傷1時間後よりwithanoside IV(10μmol/kg/day)を20日間経口投与したところ、後肢運動機能のスコアであるBBB scaleや後肢での立ち上がり回数が、溶媒投与群と比較して有意に増加した。脊髄切片を各種マーカータンパク質の抗体により免疫染色したところ、損傷群では軸索が断裂し、中枢性ミエリンが脱落した空洞部にmicrogliaの増加が見られた。一方、withanoside IV投与マウスでは、損傷部位に軸索が有意に伸展し、脱落した中枢性ミエリンの代わりに末梢性ミエリンが増加していた。加えて、astrocyteが損傷中心部位に浸潤するように移動し、それによって凝集されたかのようにmicrogliaの集積部位が縮小した。Axonとmyelinのinteractionに関わる、軸索上の分子であるneuregulin-Iは、損傷中心部で減少したが、withanoside IVによって有意に増加した。 Withanoside IVの細胞内作用機序を解明することを目的とし、培養ラット胎児脊髄を用いてaxon伸展作用を検討した。Withanoside IV(1μM)によるaxon伸展作用は、estrogen受容体antagonist、またはphosplloinositide-3 kinase阻害剤の同時処置によって、濃度依存的に抑制された。 以上、withanoside IVは、損傷部位の軸索を伸展し、かつ中枢神経のaxon伸展に対して促進的にサポートすると考えられている末梢性ミエリンを増加させ、炎症部位の収束も導くという多面的な作用を示した。さらに、withanoside IVの分子レベルでの作用機序は、PI3 kinaseとestrogen受容体を介したものであることが示唆された。アルツハイマー病モデルマウスの脳内でも、axonやsynapseを増加させ抗認知症作用を示すwithanoside IVであるが、そのメカニズムにもestrogen受容体やphosphoinositide-3 kinaseが関与するかどうか、またwithanoside IVの結合タンパク質(標的タンパク質)がestrogen受容体であるのか、あるいは他のタンパク質の可能性もあるのかについて、今後検討する予定である。
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