今年度は、脳および脊髄において神経回路網再構築活性を促進するための重要な分子としてのwithanoside IVの直接の作用点を同定することを目的として研究を行った。平成17年度研究実績報告書に記載したように、経口投与により活性を表すwithanoside IVは体内で速やかにアグリコンであるsominoneに代謝され、それが活性本体であることを既に明らかにしている。よって、withanoside IVのみならず、むしろsominoneの作用点を解析することに重点を置いた。前年度までの結果から、withanoside IVおよびsominoneの作用点の候補として、estrogen receptor αのscaffold proteinであるMNARにまず着目しその関与を検討した。MNAR siRNAをラット大脳皮質神経細胞に処置し、MNAR発現量をノックダウンさせてから薬物処置を行った。17β-estradiol刺激による樹状突起伸展は、MNARノックダウンによって抑制されたが、withanoside IV、sominone刺激による樹状突起伸展作用は抑制されなかった。この結果から、withanosideIVおよびsominoneのシグナルにMNARは関与しないことが示唆された。次に網羅的にsominoneの作用点を探索する目的で、tyrosineリン酸化受容体抗体アレイを用いた解析を行った。その結果、ラット大脳皮質神経細胞をsominone刺激するとRETとACK1がリン酸化されることを見出した。RET、ACK1いずれのノックダウン下においても、sominoneによる樹状突起伸展作用が抑制されたため、両分子ともにsominoneのシグナル経路に関与していることが示唆された。RETはGDNFfamilyの受容体であるが、sominoneはGDNF合成を介してではなく直接的にRET活性化を促進している結果が得られた。また、sominoneを正常マウスに腹腔内投与すると記憶能力が高まったことから、このマウスの脳内でRET、ACK1が活性化されているかについて検討中である。これまで記憶改善作用との関連ではRETやACK1はあまり着目されてこなかった。本成果により、神経回路網再構築による記憶改善作用の鍵分子としてRET、ACK1の役割が明らかになる可能性が示された。
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