研究課題/領域番号 |
17500263
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
大澤 郁朗 日本医科大学, 老人病研究所, 講師 (30343586)
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研究分担者 |
上村 尚美 日本医科大学, 老人病研究所, 助手 (60283800)
太田 成男 日本医科大学, 大学院医学研究科, 教授 (00125832)
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キーワード | 神経科学 / 発生・分化 / ミトコンドリア / 脳・神経 / シグナル伝達 |
研究概要 |
神経幹細胞におけるエネルギー代謝の一時的抑制が神経細胞への終末分化に必須であるとする仮説を検証することが本研究の目的である。今までに複数のヒト神経芽細胞でTCAサイクルの主要酵素であるジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素(DLST)に変異があり、エネルギー代謝が低下し、その低下が神経芽細胞の分化に必須であることを突き止めてきた。昨年度は、さらに神経芽細胞SH-SY5Yについて、個々の細胞をミトコンドリア膜電位依存的に蛍光強度が増加するTMRMで染色し経時的に観察した。SH-SY5Yは、培養過程で神経細胞へと分化可能な細胞とグリア様の形態をとる細胞が混在してくることが知られている。神経細胞へと分化可能な細胞はTMRMによる染色性が弱く、細胞分裂後もその性質を受け継いでいた。一方、グリア様の形態をとる細胞は、TMRMの染色性が高いまま分裂を繰り返した。この結果は、グリア細胞へと分化する細胞のほうが神経細胞へと分化する細胞に比べてエネルギー産生が高いことを示している。今年度は、胎生15日のラット脳スライスを染色操作で固定可能なミトコンドリア膜電位依存的蛍光色素MitoTracker Redで染色し、同時に神経分化マーカーで免疫染色した結果を詳細に解析した。その結果、増殖中の神経幹細胞(nestin陽性)から分化した神経細胞(TUJ1陽性)に移行する過程で、細胞の移動と共にミトコンドリア膜電位の一過的な低下が認められた。これはエネルギー代謝の低下がin vivoでも起こっていることを示している。逆にシナプスの形成が盛んになる位置ではミトコンドリア膜電位が大きくなり、分化後は再びエネルギーが大量に必要なことを示している。以上のSH-SY5Yとラット脳スライスを用いた実験の結果は、神経幹細胞が分化するにはエネルギー代謝の一時的抑制が必須とする我々の仮説を強く支持している。
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