ヒトは、顕微鏡下での手術(マイクロサージェリー)などに際しての手運動の操作に代表されるように、視覚空間と運動空間の座標系のオフセット移動のみならず、それら座標間の倍率が変更されても、極めて短時間にこれに適応することができる。この脳内機構をニューロン活動レベルで調べるため、サルに運動学習を要求する共通の課題を課し、行動解析を行った。 リアルタイム二次元運動計測システムでモニターした手先運動座標の倍率およびオフセットを変化させてディスプレイ上に表示することにより、視覚座標系と運動座標系を乖離させた。視覚座標上の到達運動のデフォールトの関係を「1倍」と定義した。サルでは、中心の保持ゾーンから到達目標点への直線的かつ運動速度がベル型の最適化運動をすることが確認できた。その上で、視覚座標系と運動座標系の対応関係(利得、Gain)を「1倍」から「0.5倍」に、あるいは「2倍」に変更したとき、プリズム適応と同様、約10回の試行で運動と目標点との誤差が小さくなるとともに、運動の最大速度が一定レベルに収束することが明らかとなった。 サルで観察された上記のような適応(運動学習)が、ヒトでもほぼ同様の時間経過をたどって成立していることも確認した。このことにより、サルとヒトでは極めて相同の脳内機構により運動学習の成立していることが示唆された。現在、サルでは一次運動野および運動前野腹側部からニューロン活動のマルチレコーディングを行っており、運動前野腹側部で到達運動に関連する領域を同定し、運動関連活動が視覚座標系と運動座標系のいずれかを反映しているニューロン活動をすでに同定している。次年度では、これらのニューロン活動間でどのような時間的相関があるかを、特にスパイク後促通に焦点を絞り、情報を担うニューロン間の機能結合を検討する予定である。
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