研究概要 |
長期記憶の神経基盤とされるシナプス可塑性(シナプス結合強度の長期的変化)は,電気生理学的には海馬体における誘発電位の長期増強(long-term potentiation : LTP)や長期抑圧(long-term depression : LTD)としてとらえられ,従来,げっ歯類を用いて詳細に研究されてきた.しかし,こうしたシナプス可塑性の指標を霊長類の海馬体で調べた研究はほとんどない.近年われわれは,サル海馬体で誘発電位記録を行うin vivo実験系を開発し,高頻度反復刺激により長期増強現象(LTP)が霊長類海馬体でも起こることを明らかにした.本年度はこの実験系を用い,以下の研究を行っている. 1.LTP維持期間の動物種差の検討.被検動物としてサルを2頭,ラットを5匹用い,まず高頻度刺激により海馬体にLTPを誘導した.その後,LTPの維持を観察するため,サルでは1ヶ月間,ラットでは1週間,誘発電位記録を継続した.その結果,LTPは,サルでは長期間(1ヶ月以上)持続するが,ラットでは比較的速やかに(1週間以内に)減衰することが明らかとなり,海馬体が記憶固定に役割を果たす期間の動物種差(霊長類では長く,げっ歯類では短いという事実)との関連性が示唆された. 2.記憶保持およびLTPの維持に対する加齢の影響に関する研究.本年度はサルを2頭(老齢および若齢)を用いて記憶課題の訓練およびLTP誘導を行い,年齢による行動成績やLTP誘導性の差異を比較・解析する予定であったが,上記1の事項に時間を要したこと,および,老齢動物への予定していた行動課題訓練が困難であったため,現時点では行動課題を変更し研究を継続中である.
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