研究概要 |
本年度は主として酸性pHにより活性化されるクロライド(Cl^-)電流についての研究を行なった。マウス心室筋細胞において細胞外を酸性にすると外向き整流性のクロライド電流(I_<Cl,acid>)が発生することが見出された。I_<Cl,acid>はpH7以下で発生しEC_<50>値はpH5.9であった。I_<Cl,acid>のアニオン透過性順列はSCN^->Br^->I^->Cl^->F^-を示し、大きな脱分極電位ではI_<Cl,acid>に時間依存性の活性化が見られた。同様の電流はマウス心房筋、モルモット心房及び心室筋細胞でも記録できた。DIDS、niflumic acid、glibenclamideなどのCl^-チャネルブロッカーはI_<Cl,acid>を抑制したが、伸展感受性Cl^-電流(I_<Cl,vol>)を抑えるとされるtamoxifenは無効であった。I_<Cl,vol>やCFTR Cl^-電流(I_<Cl,CFTR>)と異なり、I_<Cl,acid>の活性化は細胞内ATP依存性を示さなかった。また、I_<Cl,acid>の活性化には細胞内Ca^<2+>イオンやG proteinは関与していないこともわかった。酸性低浸透圧液中ではI_<Cl,acid>とI_<Cl,vol>は相加的に発生することが確認された。いっぽう、I_<Cl,CFTR>は酸性化によってpH依存性に抑制されることもわかった(モルモット心室筋細胞での実験)。マウス心室筋細胞の活動電位に対する酸性溶液の影響を調べたところ、酸性化により活動電位持続時間が有意に延長することが観察された。 以上の成績は、I_<Cl,acid>とI_<Cl,vol>はそれぞれ異なるアニオンチャネルグループに起因する電流であることを示すとともに、心筋細胞にI_<Cl,acid>チャネルが存在することを初めて明らかにしたものである。心筋虚血時には組織局部的にアシドージスが発生することが知られているが、I_<Cl,acid>はそのような際に活動電位持続時間や細胞容積の調節に関与している可能性がある。
|