序)酸化的ストレスによるミトコンドリアDNA(mtDNA)損傷とミトコンドリア機能不全との関連が指摘されている。本研究では、集団検診など多サンプルの解析に適した蛍光相関分光法(FCS)と長鎖PCR法を組み合わて、ヒトmtDNA損傷の検出を試みた。長鎖PCR法は酸化ストレスによりmtDNAが修飾されると、PCR産物が減少する。FCSは、蛍光分子がブラウン運動により観察領域を出入りして観察される蛍光揺らぎを自己相関分析する方法であり、電気泳動せずに高感度にPCR産物の量と鎖長を評価できるという長所を持つ。実験)293細胞のmtDNAゲノム全体を長鎖PCRで増幅した。YOYO-1は蛍光をほとんど発しないが、PCR反応液中では強い蛍光が観察され、プライマーだけでも弱い蛍光が観察された。染色したPCR反応液をFCS測定した。PCR産物(17kbp)に由来する拡散速度の遅い成分とプライマーに由来する早い成分からなる2成分モデルで解析した。結果とまとめ)遅い成分の拡散時間は20ms、早い成分は0.2msであった。鋳型濃度依存性ついては、0.4ngから遅い成分が検出され、鋳型濃度とともに増加し、40ng以上では飽和した。過酸化水素処理した細胞から精製した全DNAを20ngにしてPCR-FCS測定した。mtDNAでは過酸化水素濃度増加とともに遅い成分は減少する傾向があり、0.4mMでは有意に減少した。核にコードされたベータグロビン遺伝子はこの濃度の範囲では遅い成分の比率は変わらなかった。mtDNAが核遺伝子よりも酸化的ストレスに対して脆弱であることが示され、PCR-FCSは酸化的ストレスによるmtDNA損傷を検出できた。
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