1.心筋細胞粘弾性を分離して評価することが可能であるか、局所心筋への微小振動入力法で検討を行った。その結果、時変心筋弾性は時変心室エラスタンスと同様の変化をし、また、心筋粘性も時変であり、かつ拡張期から収縮期末に向かって増大することが示唆された。そのプロファイルは、心室エラスタンスと同様の経過であった。 2.単離心筋細胞を用いてこの理論の拡張を試みた。その結果、心筋細胞に原子間力顕微鏡で微小振動を加え同様の方法で粘弾性を計算したが、拡張期と収縮期のその差はきわめて小さかった。また、強心剤を用いてもその差は変化しなかった。 3.心筋細胞伸展装置を開発し、単離心筋細胞に負荷をかけて微小振動法による心筋細胞粘弾性の測定を試みた。試作された心筋細胞伸展装置では、心筋細胞を長軸方向に均一に伸展させることが困難で、伸展に伴い容易に心筋細胞が培養シートから剥離した。 4.新しい心筋細胞単離法の開発を行った。4U/ml protease (type XXIV)と400U/ml collagenase Aによる表面灌流法によって、心筋細胞を効率よく回収できることがわかった。培養4時間後で、1視野中1個程度電気刺激に応答する心筋細胞を回収できた。本法は、臨床例でのバイオプシー検体等にも応用が期待される。 5.心筋細胞の粘弾性と心室の粘弾性を関連づけるシミュレーターの開発を行った。心室圧、心室容積の情報から実時間で壁内応力分布を計算可能な多層心筋モデルを用いて、ラプラスの法則に基づいた心筋歪み-応力の計算法を開発した。これにより、単離心筋細胞から、心筋-心室までの機械的特性を統合的に理解することが可能となった。 今後カーボンファイバーを用いた細胞固定法により、心筋細胞に傷害を与えることなく伸展させて、単離心筋細胞の粘弾性測定を行う予定である。
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