低周波超音波が、血管を拡張し、組織灌流を改善させる現象のメカニズムを検討するため、平成17年度においては、麻酔下ウサギの大腿動脈に対して45kHzの超音波をそれぞれ5分間照射し、14MHzの診断用超音波装置で大腿動脈径を測定した。また、45kHzの超音波を照射せず、大腿動脈近位部を圧迫し血流を5分間遮断した後に診断用超音波で大動脈径を観察することで、反応性充血後の一酸化窒素産生による内皮依存性のflow-mediated vasodilatation(FMD)も測定した。結果として、FMDが正常レベルに保たれている動脈においても、われわれが使用した45kHz超音波の照射では動脈拡張効果は不十分であった。 しかし、実際の血管拡張が得られなくとも、血管内皮レベルでは内皮細胞由来一酸化窒素合成酵素(eNOS)発現等の変化が生じている可能性を考え、平成18年度はラット心臓におけるeNOSの発現が低周波超音波照射で増強するか検討した。8週齢から12週齢の雄性ラットを使用し、麻酔下に45kHz超音波を心臓に照射した。超音波照射は30分1回だけの群と毎日30分を6日間連続で行った群で検討し、最後の照射24時間後に心臓を摘出した。Sham群においては超音波を照射しなかった。eNOSの発現量はWestern blotting法を用いて行った。 結果は、sham群を100%とした時、1回照射群では107±24%と著変なかったが、6日間反復照射することで141±38%と増加した。 本研究の結果から、低周波超音波を照射することで、心臓においてeNOS発現量を増加させることができる可能性があると考えられた。ただしその効果は反復照射でなければ確認されなかった。これはわれわれの用いた超音波の音圧が低かったことが原因であった可能性がある。しかしながら、反復超音波照射による組織のeNOS発現の増強は、低周波超音波による血管拡張および組織灌流改善のメカニズムであることが示唆された。
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