末梢神経障害に由来する感覚障害の評価には主観が入りやすい。特にシビレや異常感覚を伴うと評価は難しくなる。リハビリテーションではそのような不快な感覚に対して超音波や極超短波などの温熱療法を適用するが、その効果と効果発現の機序を客観的に示した報告はなかった。本研究では従来の感覚神経伝導検査の精度を向上させ、誘発電位から数学的な逆問題解法を用いて、伝導速度分布(速度の度数分布)と伝導ブロックの状態を算出する方法を考案するとともに、それによって温熱療法の影響を検証した。まず通電性手袋型接地電極を作成し、健常者10名に適用した結果、刺激のアーティファクト除去に有用なこと、再出した速度分布の精度が向上することを証明した。次にコンピュータ・シミュレーション実験によって本計算法では、30dB以下のノイズ、50%以下の伝導ブロックであればブロック、速度分布ともに正確な推定が可能なことを示し、その上で健常者2名を対象に本法の再現性と妥当性を検証した。温熱療法として超音波や極超短波を健常者2名に照てて、前後で検査した結果、電位の変化は見出せなかったため、上肢全体を25℃に冷却後に加温して35℃まで、肢温とともに電位を記録した。その結果、加温に伴っておよそ速度分布全体が1〜1.3m/s/℃で速くなること、伝導ブロックが2〜3%/℃で増すことを示し、温熱療法の効果が伝導ブロックに起因する可能性を示唆した。最後に無症候性の軽症の糖尿病性神経炎への臨床応用例を提示した。
|