片麻痺患者の歩行は、麻痺側下肢の機能障害を絶えず非麻痺側下肢が補うことで達成されていることに着目し、歩行訓練において麻痺側下肢を使用するように導く方法を考案した。義足歩行をシミュレーションする義足を膝関節屈曲位で非麻痺側下肢に適用し、非麻痺側の膝関節および足関節での機能的代償を抑制した状態での歩行訓練を慢性期の片麻痺患者に行った。義足は、麻痺手に対する機能訓練として実施されているconstraint-induced movement therapy等に関する知見から、非麻痺側の過度な活動をできる限り少なくすることを目的に、膝関節は固定し、広い足底部とロッカーボトムを有する足部を自作した。膝屈曲位でのソケットは患者ごとに採型し、義足の長さは立位麻痺側下肢長より約2cm短く設定した。対象者は、本訓練そのものの効果を検討するために、十分なリハビリテーションを受けた発症後6か月以上を経過している片麻痺患者とした。また、安全を確保するために、明らかな骨関節疾患を持たず、文献的に、たとえ非麻痺側下肢が切断されても、義足を用いて歩行が自立することが可能とされる基準を適用した。非麻痺側下肢に義足を装着しての歩行訓練は、片麻痺患者にとっては非常に負荷のかかる訓練方法であったため、200mの義足歩行が5回の訓練で実施できるようになったことが確認されるまでは、患者が義足に適応する期間とし、その後の5回の訓練で、理学療法士による歩行のための運動学習を行わせた。歩行訓練の効果は、床反力計、歩行解析システム(GaitRite)、表面筋電図、最大歩行速度等によって判定した。その結果、立脚初期における麻痺側下肢の支持能力の著明な改善に伴って、麻痺側下肢による歩行のための推進力あるいは非麻痺側下肢のプッシュオフの増大が観察され、歩行速度は著明に改善した。これらの結果は、英文にて投稿中であり、また、考案した歩行訓練用義足については特許を申請中である。
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