研究概要 |
咀嚼嚥下における咽頭期嚥下運動を口腔との関連で観察すると,系列的な舌の食塊移送運動を伴った咽頭期嚥下運動(consecutive pharyngeal swallow : CPS)と移送を伴わない孤発的な咽頭期嚥下運動(isolated pharyngeal swallow : IPS)に分類できた。後者は不用意に下咽頭に進行した唾液や食塊に反応した嚥下のように見えた.咀嚼嚥下で食塊の進行には能動的輸送と重力が影響するが,食塊の口腔内での調整能力や,嚥下反射惹起性のような病態的要素も影響するであろう.このような病態的な要素があれば,CPSとIPSの出現に影響する可能性がある.そこで,それらの出現頻度を解析した. [対象]摂食・嚥下障害を呈し,臨床目的の嚥下造影を施行した片側大脳半球脳卒中者70名(脳卒中群)と健常高齢ボランティア32名(健常群)を対象とした.脳卒中群を臨床的重症度により水分誤嚥,機会誤嚥,口腔問題,軽度問題の4群に区分した.被験物は,液体命令嚥下(LQ),コンビーフ咀嚼嚥下(CB),液体とコンビーフの混合物の咀噛嚥下(MX)とした. [方法]各被験物での嚥下造影側面像を記録し,パーソナルコンピュータで解析した. [結果]全被験物でみるとIPSの頻度は,健常群10%,脳卒中群15%であった。健常群のMXは,60歳未満20%,それ以上35%であった。脳卒中群のMXでは非誤嚥群20%,誤嚥群40%であった。脳卒中群のIPSの30%に誤嚥を認めたが,CPSでは10%であった. [考察]健常群と脳卒中群のIPS頻度は同程度であったが,脳卒中群のIPSでは多くの誤嚥を認めた。IPSは防御的嚥下と考えられ,脳卒中者でのIPSに伴う誤嚥は,咽頭での防御機構の問題を示唆するものと考えられた。
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