研究概要 |
咀嚼嚥下における咽頭期嚥下運動を口腔との関連で観察すると,系列的な舌の食塊移送運動を伴った咽頭期嚥下運動(consecutive pharyngeal swallow: CPS)と移送を伴わない孤発的な咽頭期嚥下運動(isolated pharyngeal swallow: IPS)に分類できた。後者の発生率は健常者で約10%,脳卒中で約15%であることを昨年の研究で明らかにした.今回は健常例のCPSとIPSとを対象に二次元動作解析を行い,嚥下反射時における舌骨運動を詳しく解析した.[対象]健常ボランティア(55名)の液体(5ml)と固形物(4g)の同時捕食による嚥下造影でIPSを認めた20名の嚥下造影を対象とした.[方法]対象の嚥下造影側面像をパーソナルコンピュータに取り込み,二次元動作解析ソフトウエアーで舌骨の動きと下顎の動きを解析した.[結果]一連の嚥下運動のなかで嚥下運動は複数回観察されたがIPSはすべて第1回目の嚥下であった.CPSは閉口時下顎停止とともに開始していたが,IPSは下顎の停止とは関連がなく,下顎が動いている最中にも起こることが多かった.舌骨の運動範囲は,垂直方向,水平方向ともに,IPSはCPSに比し小さかった.[考察]IPSは系列的な舌の食塊移送運動を伴わない嚥下と定義したが,これと矛盾しない結果であった.すなわち,咀嚼時の下顎運動とは同期しない運動であった.舌骨の運動範囲も小さかったことは,気道防御のための嚥下であると想定されたことと,咽頭に進入した食塊量が少ないことが理由として考えられた.
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