研究概要 |
身体運動感覚(関節位置や運動,空間の方向性などの固有受容感覚)情報による知覚と運動制御の仕組みを明らかにするために,追跡運動課題を用いた一連の実験を行った.追跡標的(ターゲット)は,被験者の前面,床に対して垂直に設置されたスクリーン上に提示された.スクリーン上を右から左へ等速運動するターゲットの軌跡の後半部分は遮蔽され,被験者はスクリーン面に平行に置かれた追跡操作盤のレバーを手で動かしてターゲットを追跡した.実験の結果,手の位置の視覚フィードバック情報が全く与えられないケースでは,追跡する手の位置はターゲットよりも先行(オーバーシュート)することがわかった.一方,被験者にターゲット追跡中の手の位置を判断させると,手の位置に関する視覚フィードバックが全く与えられない場合,被験者は手の実際の移動距離を有意に過小評価した.運動開始直後のある一定時間内だけ手の位置の視覚フィードバックが与えられるとこの過小評価の程度は小さくなり,位置判断精度は高くなる傾向にあった.これらのことから,ヒトは固有受容感覚によって上肢運動(部位間の互いの運動,関節運動)を知覚することができる一方,脳は上肢の遠位端(手や指先など)の移動距離(変位)が実際に上肢運動によって移動した距離よりも短いと解釈している可能性が示唆された.そしてこの過小評価がターゲットをオーバーシュートする行動に関与していることが推測された.この研究成果は,2007年12月に開催された国際学会(Asia-Pacific Conference on Exercise and Sports Science 2007)で発表した.
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