17年度は、春日大社から伝播した社伝神楽の映像資料の収録を中心としながら、研究発表を行った。 具体的には、7月に山形県の出羽三山神社「花祭り」の映像資料を収録し、伶人、伶人補、祭儀部長から現在の伝承の実態について伺った。9月には奈良県春日大社「旬祭」にて祭儀課長と面談し、10月に香川県金刀比羅宮「例大祭」にて舞曲の映像資料を収録した。12月には、奈良県春日大社若宮社「おん祭」にて巫女の神楽の映像資料を収録した。さらに18年3月には春日大社の「お田植え祭」に参列し、「お田植えの舞」の映像資料を収録した後、伝承に関わる神社関係者の話を聴いた。 こうしたフィールドワークを中心としながら、すこしずつ機材の購入などを行い、研究環境を整備し、研究のための映像資料整理のシステム化を研究し、その構想を7月末に情報処理学会で発表した。8月には海外(ロンドン)にてICKLという舞踊文化と記譜の国際会議にて巫女舞という日本文化を紹介しながら、映像資料と記号を組み合わせた研究発表を行うと同時に国際的な研究交流を行った。また他領域でのシンポジウムに招かれ、6月には東洋音楽学会東日本支部定例会にて、巫女舞について音楽と舞踊の両サイドの視点からの研究発表を行った。この際、東洋音楽学会員となった。 また11月には比較舞踊学会にて「舞踊の構造と伝承形態」について研究発表を行った。 現在、基本の動作の特徴について3社の比較が進むと同時に、舞踊美学の観点からの宗教性と芸術性の間に位置づく巫女舞の諸相が、時代の中で、また地域により微妙に変化しながらも日本的な美を維持し、大和(倭)の美意識を体現するものとして今日まで伝承され、新作の神楽舞にも影響を与えて来たことがわかってきた。人以上のものへ心を向けることによる昇華的な行為の美学と、自然や神との一体化のもたらす、共同体的な平安が、日本古来の祭典行事の中では時代に左右されない緩やかな聖なる時間と空間を作り出していることが理解されてきた。神楽を通して日本人の深層に働く心の構造を予感することができた。
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