1.目的 本研究は、永年にわたり剣道を実践してきた高段者における剣道難聴の原因解明と防止対策を検討するため、剣道難聴の実態調査と道場の騒音について分析調査(音圧・周波数)を行った。 2.測定方法 1)聴力検査:剣道を専門的に行っている者(専門大学学生、大学教員、警察官)を対象として、標準純音聴力検査をオージオメータ(RION AA-56)により、設置型防音室(RION AT-57)内にて実施した。検査にあたって、耳部の臨床チェックを行うために、耳鼻咽喉科医師の検診後に実施した。 2)騒音調査;専門大学や代表的な道場を対象とし、精密騒音計(RION NA-27)を使用して、稽古中の騒音の音圧(1/3オクターブ分析)や周波数解析などを行った。 3.結果: 1)聴力検査;標準純音聴力検査にて1000Hz以上で、かつ30dB以上の聴力レベルを1つ以上の周波数で認めたものを聴力異常者とすると、剣道専門大学生でも117例中22例と18.8%の聴力異常が認められ、社会人(大学専門教員・警察官)では70例中38例と54.3%と極めて高い発生率であった。2kHzディップ型、8kHz障害型が多くみられ、4kHzディップ型聴力障害例は3耳と少数であった。 2)道場内騒音調査:稽古中に生じる音は掛け声(800Hz)、踏み込み音(31.5Hz)、竹刀音(4kHz)、打撃音(4kHz)などが混在していた。道場騒音は道場の大きさや床構造さらに技術レベルによっても異なるが、全体的には掛け声と思われる800Hzの周波数帯域で最も音圧が大きく、稽古中の等価騒音レベル(1分間)の平均は80〜90dBであり、次に踏み込み音を含む低周波数帯域(31.5Hz〜80Hz)が大きかった。また、音圧最大瞬間値は100dB以上となり、かなりの騒音に暴露されていることが明らかとなった。
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