本研究では、運動時に骨格筋細胞内で活性化を受ける5'AMP-activated protein kinase(AMPK)に注目し、AMPKによって惹起される生理作用とその調節メカニズムについて検討した。まず、AMPK活性剤AICAR(5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-β-D-ribonucleoside)をマウスに注射して、実際に水泳運動を行った場合と同程度まで骨格筋AMPKを活性化すると、AICAR単回投与では単回の水泳トレーニングと同様にインスリン非依存性糖輸送活性促進が、反復投与では反復トレーニングを行った場合と同様に糖輸送担体GLUT4増加とインスリン依存性糖輸送活性元進が生じることを見出した。一方ラット単離筋を用いた実験で、AICARによって筋収縮時と同程度にAMPKを活性化しても筋グリコーゲン量が低下せず、glycogen synthaseが抑制されるとともにphosphorylase活性も亢進しないことを見出した。また、AICAR刺激によって筋からの乳酸産生が増加したことから、AICARに反応して取り込まれた糖が解糖系を経て代謝されているものと考えられた。これらの結果は、AMPKが(1)骨格筋糖輸送やGLUT4発現、インスリン感受性の亢進を惹起する役割を有すること、(2)グリコーゲン分解やグリコーゲン合成の促進には直接には関与しないこと、(3)筋に取り込まれたグルコースをグリコーゲン蓄積ではなくATP産生の方向に配分する作用を有することを示唆するものである。さらに骨格筋AMPKの中枢神経性調節についても検討し、melanocortin(MC)系の刺激剤(MT-II)と阻害剤(SHU9119)のマウス脳室内投与、並びに内因性MC作動蛋白発現マウス(KKA^yマウス)を用いた実験から、leptinによる骨格筋AMPK活性化がMC系の活性化を介して生じている証拠を見出した。この結果は運動時の骨格筋AMPKの活性調節に中枢神経系が関与している可能性についての示唆を与えるものである。
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