研究課題
現在、わが国では運動不足が深刻な社会問題となっている。運動意欲を高めることにより、現代人の運動不足による疾患は予防できることが期待される。しかし、自発的に運動を起こす脳内分子基盤について不明な点は多い。本研究では、運動習慣を高める脳内因子の獲得あるいは分子基盤の解明のため、自発的に高い走行運動を行うモデルラットSPORTS(Spontaneously Running Tokushima-Shikoku;Wistar系)の近交系を確立した。SPORTSラットは高い運動意欲を有し、対照の同系ラットに比べ、回転かごにおいて6〜10倍の走行運動を示す。げっ歯類の回転カゴ運動により神経生理学的な変化をうけやすい脳の領域の一つとして、海馬が注目されている。動物の情動や行動には脳内モノアミン動態が深く関与することより、本研究では、海馬におけるモノアミン動態がSPORTSラットの運動量にどのような影響を与えるかについて検討した。安静飼育状態のオスSPORTSラットの海馬では、細胞外ノルエピネフリン(NE)量の著明な上昇とa2アドレナリン受容体のdown-regulationが観察された。SPORTSラットの回転カゴ運動はa2アドレナリン受容体アゴニスト(clonidine)の海馬への局所投与では阻害されず、a2アンタゴニスト(yohimbine)により有意に抑制された。このことより、NEによるa2受容体への刺激により高運動性が生じた可能性が示唆された。また、このNEの上昇のメカニズムとして、代謝分解酵素であるモノアミンオキシダーゼA(MAOA)活性およびタンパク発現量が有意に低下していることによることが示された。また、対照のWistar系ラットに対して、MAOA選択的阻害剤であるclorgylineを腹腔内へ慢性投与、あるいは海馬へ直接急性投与した場合にも、SPORTSラットで観察されたような走行距離の増加がみられた。このことより、SPORTSラットの高運動性の原因の一つとして海馬のMAOA活性の低下によることが考えられた。以上、SPORTSラットでは、海馬におけるMAOA活性の低下、その結果細胞外NEが上昇し、a2アドレナリン受容体を介した経路が高運動習性を規定している可能性が示唆された。本研究の成果は、脳をターゲットとした新しい運動不足予防法の開発に貢献できることが期待される。
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