本研究では、運動による脳虚血耐性の獲得とその機序の解明を行うことを目的としており、本年度は、虚血耐性を得るための運動の種類にっいて形態学および行動学的に検討した。虚血モデルとして、前脳虚血モデル(砂ネズミ使用)と中大脳動脈閉塞モデル(ラット使用)の2種類を用いた。前脳虚血は記憶・学習機能が障害されるモデルであり、中大脳動脈閉塞は主に運動機能が障害されるモデルである。運動の種類としては、強制運動(トレッドミル、35m/min×60分/日)と自由運動(回転かご)をそれぞれの虚血モデルに対して使用した。1ヶ月の運動後、それぞれの虚血を行い脳障害の程度を測定した。運動の種類によらず、運動群では非運動群に比べて餌摂取量は同じであったが、体重の増加率は有意に少なかった。さらに、前脳虚血および中大脳動脈閉塞モデルの両方に対して、強制および自由運動は虚血障害の抑制傾向を示した。行動学的検討として中大脳動脈閉塞モデルに対して運動機能検査を行ったが、両群において有意な差は見られなかった。また、前脳虚血モデルに対しては8方向迷路試験を行ったが、この試験においても運動の効果は明瞭ではなかった。今後、トレッドミル運動を用いた運動強度の検討により、組織学的のみならず機能的にも最大の効果を得られる運動を検討する必要がある。また、虚血耐性の機序として運動による脳内酸化-抗酸化系(スーパーオキサイドジスムターゼやチオレドキシンなど)の変化や脳血管の増減の有無などについて検討する。さらに、虚血後の神経系再生への運動の関与についても調べる予定である。
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