本研究では、運動による脳虚血耐性の獲得とその機序の解明を行うとを目的としており、中大脳動脈閉塞あるいは前脳虚血モデルネズミを作製して運動による脳障害抑制効果を調べた。いずれのモデルとも強制運動(トレッドミル、15〜30m/min)および自由運動(回転カゴ)において運動による障害抑制傾向はみられたが、統計学的には有意ではなかった。また、虚血後の運動の効果を調べる目的で、脳虚血作製後、自由運動を2週間行った後、中大脳動脈閉塞ラットに対しては運動機能試験、前脳虚血砂ネズミに対しては8方向迷路学習試験を行った。しかしながら両モデルとも運動による機能の有意な改善効果はみられなかった。次に、基礎疾患がある場合の運動による虚血耐性獲得の検討のために、高血圧発症ラット(実験開始時生後8週齢♂)を3週間強制運動させた後に、中大脳動脈閉塞を行った。脳虚血障害に関しては、運動による梗塞巣縮小傾向が見られ、特に激運動群(30m/min)は対照群に比べて有意に抑制効果がみられた。一方、運動は血圧の上昇に関しては影響を及ぼさなかった。また、脳由来神経栄養因子の抗体を用いた脳組織の免疫染色では、運動群は非運動群に比べてその染色性が増加していた。以上より、基礎疾患のない、正常な動物では運動の種類・強度にかかわらず、運動による虚血耐性獲得は明らかではない。一方、基礎疾患のために脳虚血に対して脆弱性をもつ場合、運動による虚血耐性がより効果的に得られ、その際は、ある程度激しい運動強度が必要であることが分かった。さらに、この虚血耐性獲得の機序の一つとして神経栄養因子の関与が考えられる。
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