(平成18年度) 頚動脈小体は、慢性低酸素暴露により拡張するが、前述のごとく肥大のメカニズムは明らかではない。一方、高血圧ラットの頚動脈小体も肥大すると言われているが、正確に組織計測された所見は報告されていない。本実験では高血圧自然発症ラット(SHR)の頚動脈小体について、その小体内血管の径を組織計測するとともにペプチド性神経線維の分布を調べ、その形態学的特徴を対照群ラット(NWRおよびWKY)と比較検討した。低酸素環境および高血圧という異なる病理学的状況における頚動脈小体の形態学的特徴を比較することで肥大のメカニズムの一端を解明するための手がかりを得ようとした。得られた結果は次の3項目に要約される。1)SHRの頚動脈小体はNWRおよびWKYに比べ大きく、長径で約1.3倍(P<0.05)大きかった。2)SHR頚動脈小体は肥大しているが、小体内には拡張した血管の割合は低く、その割合いはNWRとWKYに比べ差は認められなかった。3)SHR頚動脈小体内のSP、CGRPおよびNPY線維は、血管周囲および化学受容細胞間に認められ、その分布様式および密度はNWRとWKYと同様であったが、VIP線維は低かった。これらの結果から、SHRの頚動脈小体における肥大のメカニズムはこれまでに報告されている低酸素暴露ラットの頚動脈小体の肥大メカニズムとは異なるものと考えられる。 高地における低酸素環境への順応の結果、呼吸機能の促進、赤血球の増加および各臓器における血管増生が起こることが一般的に知られているが、この背景には頚動脈小体の機能亢進に伴う肥大が起こるが、化学受容細胞の動態変化は低酸素状態とその神経支配が関与し、血管増生に関しては炭酸ガス分圧とペプチド性神経線維が関与していると考えられる。
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