骨格筋の可塑性の発現には、筋組織の組織幹細胞である筋衛星細胞(サテライトセル)が重要な役割を果たしている。筋損傷後の再生において、サテライトセルは活性化されて主要な役割を演じていることから、骨格筋量を維持する(筋萎縮を抑制する)にはサテライトセルの賦活化が鍵となる。そこで本研究では、(1)骨格筋再生機構およびその能力に関与するサテライトセルの役割およびその由来を明らかにし、(2)サテライトセルの増殖や分化を促す因子を見出し、骨格筋の再生能力を高める具体的方策を見出すことを目的とした。本研究は3年計画で実施され、本年度はその3年目(最終年度)に当たる。これまで2年間の研究成果を踏まえ、骨格筋組織に再生を促す筋タンパク増量ならびに再生における骨格筋細胞の細胞周期を増殖期および分化に移行させる細胞内シグナルを解明することを目的とした。骨格筋損傷モデルを用いた検討により、温熱刺激によりサテライトセルが活性化され、筋損傷の回復が促進されることが示され、その際に生じる細胞内シグナルとしてインターロイキン6(IL-6)、およびNF-κBの関与が示唆された。温熱刺激ならびにストレスタンパク誘導剤によるストレスタンパク質(HSP72)の発現誘導が骨格筋細胞の分化を促進することが示され、細胞内シグナル伝達におけるHSP72の関与が強く示唆された。ヒトを対象とした実験も一部実施し、筋肥大や筋力増強を期待できない30RM未満の運動でも温熱刺激を組み合わせることで、筋肥大ならびに筋力増強が引き起こされることが示された。以上より、サテライトセルの増殖や分化を促す因子としてストレス応答関連分子の関与が強く示唆され、こうした分子を発現するストレス応答を誘導する細胞外刺激を負荷することが骨格筋の再生能力を高めるために有効であることが明らかとなった。
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