骨格筋の可塑性の発現には、筋組織の組織幹細胞である筋衛星細胞(サテライトセル)が重要な役割を果たしている。筋損傷後の再生において、サテライトセルは活性化されて主要な役割を演じていることから、骨格筋量を維持する(筋萎縮を抑制する)にはサテライトセルの賦活化が鍵となる。そこで本研究では、(1)骨格筋再生機構およびその能力に関与するサテライトセルの役割およびその由来を明らかにし、(2)サテライトセルの増殖や分化を促す因子を見出し、骨格筋の再生能力を高める具体的方策を見出すことを目的とした。本研究は3年計画で実施された。その結果、(1)筋損傷後の回復初期にサテライトセルが活性化すること、(2)筋肥大を引き起こす条件化では、筋損傷後の回復が促進すること、(3)損傷骨格筋の再生には骨髄組織幹細胞が関与していること、(4)温熱ストレス、女性ホルモン(estrogen)および筋収縮(筋活動)が筋の再生を促すシグナルを骨格筋細胞に発生させること、(5)骨格筋再生時にはインターロイキン6(IL-6)およびNF-κBが関与すること、(5)骨格筋の肥大に寄与する筋細胞の分化を促進する細胞内シグナル伝達にHSP72が関与すること、が示された。以上より、サテライトセルの増殖や分化を促す因子としてストレス応答関連分子を発現するストレス応答を誘導する細胞外刺激を負荷することが骨格筋の再生能力を高めるために有効であることが明らかとなった。本研究の成果は、筋萎縮の抑制や筋肥大の促進、あるいは筋損傷の回復促進する手法の開発につながると考えられ、スポーツ科学はもちろんのことリハビリテーション領域においても重要な知見であると確信する。
|