研究課題
本年度は、まず脊髄損傷者のスポーツ実施が、麻痺した下肢を含む全身の筋系および循環系の機能に如何なる影響を及ぼしているかを明らかにするために、車椅子スポーツ選手(陸上競技、バスケットボール)を対象に筋機能、末梢循環機能、全身持久力の測定を行い、スポーツ種目によるトレーニング効果の違いを評価した。1.車椅子スポーツ選手の末梢循環機能についてみると、健常者に比べ、上肢の動脈の血管拡張能力は優れていたが、下肢の動脈の血管拡張能力は劣っていた。このことから、脊髄損傷者の日常的なスポーツ実施が、上肢動脈の機能向上には寄与するが、下肢の動脈機能の向上に寄与しないことが示唆された。2.脊髄損傷スポーツ選手をスポーツ種目別で分類し、トレーニング効果の違いを検討したところ、車椅子マラソン選手の上肢動脈の血管拡張能力は、車椅子バスケットボール選手および健常者より有意に優れていたが、下肢動脈の血管拡張能力は、車椅子マラソン選手が、車椅子バスケットボール選手および健常者と比べ、有意に低い値を示した。そのため、車椅子マラソン選手の激しい持久性トレーニングは、トレーニングに使用する上肢の動脈機能を向上させるが、逆に運動に関与しない麻痺部である下肢の動脈機能の萎縮を促進させている可能性が示唆された。本結果から、車椅子マラソンのような激しい持久性トレーニングは、上肢には効果が認められたが、下肢には効果が認められなかった。一方、筋力と持久力の両者を用いる車椅子バスケット選手では、上肢の血管機能に効果が見られるとともに、下肢の血管機能の萎縮も助長しないことが明らかになった。
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