研究概要 |
暑熱環境に繰り返し暴露されたり,持久的な運動トレーニングを持続すると,暑熱ストレスに対する生体負担を軽減するような生物学的適応(暑熱順化)を生じる。その適応には,発汗反応や皮膚血管拡張反応の変化が含まれる。暑熱暴露時の皮膚血管拡張は発汗活動と部分的に関連することが報告されているため,暑熱順化による皮膚血管拡張反応の変化機序を明らかにするためには,発汗機能の変化についても検討する必要があると考えられる。そこで本年度は短期間の暑熱順化による発汗機能の変化機序について,発汗中枢活動の指標である汗の拍出頻度(Fsw)を用いて検討した。健康な男子大学生8名が6日間の暑熱下(環境温36℃)運動プログラムを行った。運動プログラムの前後の日に,温水循環スーツを用いた暑熱負荷テストを行い,胸部と前腕部の局所発汗量(SR),Fsw,食道温を測定した。暑熱負荷中に発汗が開始する食道温閾値は,いずれの部位でも暑熱順化によって有意に低下した(順化前36.83±0.06℃;順化後36.67±0.05℃,P<0.01)。食道温とSRの関係は,いずれの部位でも暑熱順化によってその勾配は変化しなかったが,より低い体温へ位置が移動した。Fswは加温によって増加し,その増加は順化前後で有意に異ならなかった(P=0.69)。暑熱順化によって食道温とFswの関係の勾配は変化しなかったが,位置が低温側へ移動した。FswとSRの関係は,いずれの部位においても暑熱順化によって有意に変化しなかった。以上のことから,短期間の暑熱順化によって,発汗が開始する深部体温閾値は低下し,この変化には中枢機構が関与すると推測された。本研究条件では,発汗の末梢機構に有意な変化は認められなかった。
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