暑熱環境に繰り返し暴露されたり、持久的な運動トレーニングを持続すると、暑熱ストレスに対する生体負担を軽減するような生物学的適応(暑熱順化)を生じる。その適応には、発汗反応や皮膚血管拡張反応の変化が含まれる。本研究では短期間の暑熱順化による有毛部発汗機能の変化機序ならびに有毛部と無毛部の皮膚血管拡張機能の変化の違いについて検討した。被検者は健康な男子大学生8名であった。実験は、8日間連続して行った。1日目および8日目には、暑熱負荷テストを行い、その間の6日間は暑熱順化プログラムを行った。1日の暑熱順化プログラムの内容は36℃の室温環境下で最高酸素摂取量の50%強度の自転車運動を20分間、10分間の安静を挟んで4回行うというものであった。暑熱負荷テストでは、水循環スーツを用いて全身加温を行い、胸部と前腕部の局所発汗量(換気カプセル法)、汗の拍出頻度、前腕部(有毛部)と手掌部(無毛部)の皮膚血流量(レーザードップラー流量法)、食道温、皮膚温、平均動脈血圧および心拍数を測定した。皮膚血流量と平均血圧から皮膚血管コンダクタンスを算出した。食道温の上昇に対する発汗量、汗の拍出頻度および皮膚血管コンダクタンスの応答から、発汗開始閾値食道温と皮膚血管拡張閾値食道温、およびそれぞれの関係における勾配を算出した。実験の結果、短期間の暑熱順化によって、有毛部の発汗が開始する閾値深部体温は低下し、この変化には中枢機構が関与すると考えられた。また、皮膚血管運動機能は、暑熱順化によって有毛部では低い深部体温から血管拡張が開始されるように変化するが、無毛部ではそのような深部体温の上昇に伴う適応性変化が生じないことが示された。
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