研究概要 |
本年度は研究の最終年になるので、全体のまとめと成果としての研究発表、報告書つくりを中心とした. 遠藤は,台湾のデータと日本のデータの比較をおこなった.大学バレーボール選手を対象とした結果,日本選手は道徳的価値を,台湾選手は能力的価値をより重視している傾向にあることがうかがえた.また,日本と台湾の選手では集団への同一視プロセスに違いがあることが考えられ,日本選手に合った社会的アイデンティティ尺度の検討が必要であることが示唆された. 三宅は,体育系ではない多種多様な専門領域を有する総合大学に在籍する大学生を対象に所属集団の集団雰囲気を測定し、一般大学生の社会的アイデンティティを分析検討した.対象は,総合大学に在籍する大学生413名(有効回答数404名):内訳は男子268名(平均年齢19.4±1.38歳)および女子136名(平均年齢19.2±1.75歳)であった.その結果,女子の方がより主体的、積極的に集団の活動に関わっている様子が窺われる。また,所属集団の違いを検討すると,自他共に厳しいと認める体育会運動部や仕事の厳しさを感じているアルバイト先を自分が所属している集団と捉えている大学生は集団に自主的、積極的に関わることで達成感や満足感が得られ、それが所属集団を肯定的に評価することに繋がっているものと推察される。これは、ややともすると厳しさを避け、甘い方向に流されがちだと評される現代の大学生の中にも、互いに切磋琢磨できる厳しい集団を求める大学生がいることを認識させてくれる結果となった。 阿江は,社会的アイデンティティに関する研究動向を調べた.その結果,1980年代に群衆や民族的なアイデンティティを扱った研究からスタートしたが,近年,研究の増加がみられ,ファンの行動についてのマーケティングの分析にも関心が広がっていることがわかった.また,スポーツ特待生と非特待生について社会的アイデンティティを調べ,国際体育連盟の会議(フィンランド)で発表した. スポーツ集団の状況を社会的アイデンティティという視点でとらえることで,従来集団の心理的変数として考案された集団凝集性など集団の平均値で数量的に集団状況を表すのとは異なった集団状況をとらえることができると考えられる.比較文化的な研究では,文化によって集団所属の重点が異なったり,集団規範も異なることが明らかになった.また,研究を進める上で,国によって「スポーツ集団」自体の存在が全く異なることも明らかとなった.したがって,スポーツ集団の一般的理論を我が国のスポーツ集団に直接当てはめることは適切ではないと思われる.そのような視点から,スポーツ集団についての研究を検討しなおすことが重要だと思われる.
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