ブラジル・サッカーから連想されるイメージ、プレイスタイルの理想像、競技観や理念等を「ブラジル・サッカー像」と呼び、その形成過程を歴史学的に明かにすることが本研究の目的である。これまでの予備的研究の中で、ブラジル・サッカー史研究の動向をレビューし、ブラジル人による自国サッカー史の見方が大きく三段階に変化する可能性を指摘してきた(第1期:1940年代〜60年代、第2期:1970年代〜1980年代、第3期:1990年代〜現在)。本研究においては、これらの各時期について、第一にブラジル・サッカー史叙述に作用した社会背景とサッカー界の動勢を明らかにし、第二に代表的な言説を提示した重要人物を取り上げ、言説を規定した思想的立場や研究手法を検討し、そして第三に各々の時期に出現するブラジル・サッカー像がどのようなものであったかを考察していく。初年度である平成17年度は、ブラジルでの調査と資料収集を実施し、第1期(1940年代〜1960年代)及び第2期(1970年代〜1980年代)におけるブラジル・サッカー像の形成に影響を与えたマリオ・フィーリョ(Mario Filho)、ダマータ(DaMatta)等の諸言説を中心に検討を行った。その結果、第1期、第2期に特徴的に見られるブラジル・サッカー史叙述(リオデジャネイロの黒人・混血選手に注目するローカルな見方、及び、ブラジル社会を生きる国民[民衆]に注目するナショナルな見方)と対応したブラジル・サッカー像が確認された。本年度に得られた研究成果の一部を、「ブラジル・サッカー史像と1980年代」(日本体育学会体育史専門分科会2005年度春の定例研究集会、2005年5月、広島)、および、「『ブラジル・サッカー史像』とプレイスタイルをめぐる言説との歴史的連関」(日本体育学会第56回大会、2005年11月、つくば)の二つの口頭発表で報告した。
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