研究概要 |
小児期に受けた家庭内及び家庭外での逆境体験が、その後のうつ病や自殺企図、、摂食障害の発症危険因子になっていることはすでに欧米で報告されているが、わが国ではまだない。そこで、家庭内の逆境体験として、(1)両親間の暴力、(2)親からの身体的及暴力、(3)親からの精神的暴力、(4)家族の病気、(5)親から可愛がられた体験、(6)両親の離婚または別居、(7)家庭崩壊の7項目で、家庭外の逆境体験として、(1)先生や級友からの身体的暴力、(2)先生や級友からの贔屓や無視などの精神的暴力、(3)小学校でいじめられた体験、(4)中学校でいじめられた体験、(5)性的いたずらの5項目で評価した。そして、これらの項目と若者のうつ傾向、自傷行為、慢性疲労、学校適応との関連について調査した。また、文化が違う韓国(ソウル)との違いについても調査した。対象は大学に通学している日本の学生1592名(平均年齢20歳)とソウルの学生980名(平均年齢20歳)で、自己記入式質問紙で答えてもらった。 日本の大学生では、うつ傾向と自傷行為、慢性疲労、学校適応の4項目とも家庭内逆境体験では親からの精神的暴力と可愛がられた体験がないことが強い危険因子になっていた。特にうつ傾向では、精神的暴力をしばしば受けたケースでは、なかったケースに比べオッズ比から計算した相対危険度は16.8であった。また、自傷行為は8.7、学校への不適応は9.6、慢性疲労は3.6であった。可愛がられた体験がなかったケースは、あったと答えたケースに比べうつ傾向の相対危険度は5.3、自傷行為は4.2、慢性疲労は3.1、学校不適応は4.0であった。家庭外での逆境体験では、うつ傾向と慢性疲労について最も強い危険因子になっていたのは、先生や級友からの贔屓や無視で相対危険度はそれぞれ4.9、2.6であった。自傷行為では性的いたずらが5.8、学校不適応では学校でいじめられた体験が7.3であった。 韓国の学生との比較では、家庭内逆境体験では身体的暴力はソウルの学生が15.7%で日本の6.2%に比べ頻度が高かったが、精神的暴力、両親の離婚割合、家庭が崩壊している割合は日本の学生が13.8%,7.0%,5.0%でソウルの10.2%,4.6%,2.7%に比べ高かった。家庭外逆境体験では、小学校、中学校でのいじめられた体験はソウルの3.4%,4.7%に比べ、日本は11.7%,21.8%と高く、さらに先生や級友からの贔屓や無視された割合も日本が3.7%でソウルの1.3%に比べ高かった。 以上の結果より、日本の大学生のうつ傾向や慢性疲労、自傷行為、学校不適応には、幼小児化から受けた家庭内と家庭外での逆境体験が強く関係していることがわかった。また、日本の学生は韓国の学生に比べ、精神的な暴力を受けている割合が高いことがわかった。
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