高血圧、糖尿病、肥満に代表される生活習慣病の発症には、食生活、運動などの生活習慣と並んで個体が持つ遺伝要因の違いも重要である。本研究では、生活習慣病の発症に関わる感受性遺伝子を同定すること、さらに、どのような食生活とどのような感受性遺伝子の組み合わせが、どの程度生活習慣病の発症に影響を与えるのかを明らかにすることを目的として研究をおこなった。 人間ドックを受診した成人835名を対象として、エネルギー代謝、インスリン抵抗性、インスリンシグナル伝達などに関わることが予想される16種類の遺伝子多型および活性酸素の生成や消去に関わる酵素の15種類の遺伝子多型と肥満、糖尿病、BMIとの関連を分析した。その結果、熱産生に関わるUCP3遺伝子およびインスリンシグナル伝達に関わるENPP1遺伝子の個体差が肥満の発症やBMIの決定に影響を与えている可能性が示唆された。また、活性酸素の生成や消去に関与するGSTM1遺伝子、GSTM3遺伝子、CYBA遺伝子の個体差が、糖尿病の発症に影響を与えている可能性が示唆された。 高血圧については、腎尿細管での電解質輸送に関わる5種類の遺伝子を分析したところ、セリンスレオニンキナーゼ遺伝子およびNa/K/2Cl共輸送体(SLC12A1)遺伝子と血圧値の間に関連がみられた。次に、ナトリウムおよびカリウムの摂取量を考慮にいれて、これらの遺伝子型と血圧値の関連を分析したところ、カリウム摂取量の少ないSLC12A1遺伝子イントロン14T>C多型のC対立遺伝子保有者の血圧値は、特に高かった。カリウムには血圧降下作用のあることが知られているが、その効果には個体が持つ遺伝子型も影響することが示唆された。食生活をはじめとする様々な環境要因と複数の遺伝子の相互作用が個体に及ぼす影響について、さらに詳細に分析してエビデンスの収集を積み重ねていくことが重要である。
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