アディポネクチン(ADPN)は、脂肪細胞から分泌される蛋白質として発見され、血管内皮細胞に直接働いて動脈硬化を抑制し、冠動脈疾患(CAD)患者では血中濃度が低いことが判明した。最近ADPNは、単量体や三量体ではなく十二量体や十八量体といった高分子量(HMW)のものが、AMPキナーゼの活性化やインスリン抵抗性改善薬の効果、CADの発症などにより関連していることが明らかとなった。当センターで実施している定期健康診断の対象となる教職員(25〜65歳)および当院内科の糖尿病患者(30〜79歳)のうち、本研究に関してインフォームド・コンセントの得られた者を対象とし、富士レビオ社の「高分子量アディポネクチン測定キット」で測定したHMW-ADPNとメタボリックシンドロームの構成因子、インスリン抵抗性指数(HOMA-R)などとの関連を検討した。 30〜65歳の健常人960名を対象とした血清中のHMW-ADPN濃度は、男性では女性の0.53倍と低値であり、HDL-Cと強い正の相関を示し、BMIや血糖、HOMA-R、中性脂肪や尿酸とは負の相関を示した。また、HMW-ADPNは全量ADPNよりも、HOMA-Rやメタボリックシンドロームの有無をより鋭敏に反映していた。縦断的検討では、ベースラインのHMW-ADPN濃度は、HOMA-Rの変化量と有意な負の相関を示した。また、男性メタボリックシンドローム患者を対象に、3ヵ月間の食事や運動習慣の指導前後で検討した。腹囲と食後2時間のインスリン値は改善し、全量ADPN濃度は変化せず、HMW-ADPNは平均2.5から3.4μg/mlに上昇した(P<0.01)。さらに、健常人を対象として、PPARγ遺伝子のSNPsのうち12Ala保持者は、男女とも血清HMW-ADPN濃度が有意に低値であった。 以上より、血清の高分子量アディポネクチン濃度は肥満や遺伝素因で低下し、メタボリックシンドロームの各構成因子やインスリン抵抗性と強く関連しており、重要な血中マーカーと考えられる。
|