アディポネクチン(ADPN)は脂肪細胞から分泌される蛋白質として1996年に発見され、血管内皮細胞に直接働いて動脈硬化を抑制し、肥満・糖尿病マウスに投与するとインスリン抵抗性および高血糖が改善することが明らかとなった。最近、ADPNは単量体や三量体ではなく12量体や18量体といった高分子量(HMW)型のものが、AMPキナーゼの活性化やインスリン抵抗性改善薬の効果、および冠動脈疾患の発症などにより関連していることが報告されている。当センターの定期健康診断対象である教職員(25〜65歳)および内科外来の糖尿病患者(30〜79歳)のうち、本研究に関してインフオームド・コンセントの得られた970名を対象とした。血清中のHMW-ADPN濃度は、富士レビオ社の「高分子量アディポネクチン測定キット」で測定した。 その結果、男性の中央値は女性の約半分であり、男女ともHDL-Cと強い正の相関を、BMIや血糖、HOMA-IR、中性脂肪や尿酸とは負の相関を示した。また、HMW-ADPNは全量ADPNよりも、HOMA-IRやメタボリックシンドロームの有無をより鋭敏に反映していた。縦断的検討では、ベースラインのHMW-ADPN濃度は、2年間のHOMA-IR変化量と有意な負の相関を示した。 さらに、健常人を対象としてADPN遺伝子の45、276、349番塩基のSNPsおよびPPARγ遺伝子の12番目のアミノ酸がブロリン(Pro)からアラニン(Ala)に置き換わるSNPを、TaqManPCR法で判定した。アディポネクチン遺伝子のSNPsの検討では、3多型とも多型間で血清HMWアディポネクチン濃度の差異は認められなかった。一方、PPARy遺伝子のAla型を持つ者は男女とも血清HMW-ADPN濃度が有意に低く、遺伝因子によりHMW-ADPN濃度が規定されることが示唆された。 以上より、血清の高分子量アディポネクチン濃度は肥満や遺伝素因で低下し、メタボリックシンドロームやインスリン抵抗性と強く関連しており、重要な血中マーカーと考えられる。
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