研究概要 |
高齢者の転倒が社会的問題となっている.厚生労働省では,平成18年度から介護保険の位置づけに予防を加え,新予防給付と地域支援事業の2つの柱を新たに追加する.この例のように,高齢者個人ごとの歩行能力および転倒リスクを定量的に評価し,運動指導等を通してリスクを減じ,転倒を予防する試みが始まりつつある.しかし,その評価方法には科学的根拠が乏しいこと,評価が簡便に行えないという問題が存在している,本研究では,足指・足爪異常などから,歩行能力が低下し,転倒リスクが増大する可能性に着目した.足指・足爪異常などの足部機能不全は,歩行相最終期の蹴りだしが十分ではないため,(1)すり足歩行,(2)遊脚期の膝関節部の高さが減少すると考えられる.そのため,立位や歩行の安定性を欠き,ひっかかりなどの転倒発生率を高める原因となる.そこで,本研究では足指・足爪に異常がある健常高齢者および虚弱高齢者を対象に足指・足爪のケアを一年間実施し,メディカルフットケアによる歩行能力,下肢筋力,足指などの前足部機能(柔軟性等)などの変化を調べた.対象者は特別養護老人ホームに住む高齢者15名(特定高齢者および虚弱高齢者)とし,年齢が73〜96歳の後期高齢者を主体として構成した.実験方法はビデオ撮影による動画像解析,足指間圧力,重心動揺プレートを用いた姿勢制御能評価,ゴニオメータ等を用いた前足部可動域評価,足部写真撮影による形態学的評価を行った.その結果,メディカルフットケア前より一年後で歩行中の膝関節の高さ,歩行バランスが向上し,すり足歩行の改善と歩行中の蹴りだしの力の増加等を確認した.以上より健常,虚弱高齢者を対象に行ったメディカルフットケアにより,歩行能力の維持・向上,下肢機能などに有効であることが示唆された.このことは,転倒予防および介護予防を推進するための基礎的エビデンスを提供するものであると考える.
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