本研究は、日本人の生活リズムに適合し育まれた季節行事である節句に利用される植物の香気成分の自律神経調整機能を明らかにし、より多くの日本人の嗜好に合致し日本の豊かな四季や伝統を楽しみながらストレスを解消し生活習慣病を予防できる芳香性素材の開発を目的とする。 1.マウスにおける自律神経系調整作用を有する芳香性植物素材の探索 白朮、松葉、白桃花、桃仁、艾葉、菖蒲根、竹葉、菊花などの植物材料から揮発性成分をヘキサン抽出後ヘキサンを減圧留去して試料を調整した。これらの試料をtriethyl citrateで10倍希釈し、その300μlを香り発生装置に滴下し、加熱してケージ内に揮発させた。次いで、別のケージで馴化させていた安静なマウスを、このケージに移し、1時間、探索行動による運動量を測定した。本系において香りがオープンフィールド試験における自発運動量に与える効果を検討した結果、白朮のみが、自発運動量を顕著に抑制し、他の試料は統計的に有意な効果を示さなかった。今後は、白朮の脳内カテコールアミンや心拍変動に及ぼす効果について検討する予定である。 2.ヒトにおける自律神経系調整作用の評価系構築 初年度は、学生を被験者とし、閉眼状態で簡単で短時間のタスクを実施させて軽微なストレスを付加し、脳波心電リアルタイム解析システムMemCalc/Makin2を用いて自律神経系の変調を、脳波(α波の割合)、心拍数、および心拍間隔変動のパワースペクトルに関して検討した結果、心拍数が自律神経系の変調を捉えるのに最も適した指標であることが明らかにした。そこで、本年度は、ワイヤレス心拍測定系を導入し、無拘束・開眼の状態でクレペリンテストを実施し、持続的に単純作業を繰り返させた際のストレスによって生じる心拍及び心拍パワースペクトルの変動に関する検討を行なった。クレペリンテストは、簡単な一桁の足し算を、5分間の休憩を挟んで2セット(15分間×2)行い、その作業量によって表れた曲線によってその能力特徴を判定する試験で、「タスクパフォーマンス」=「働きぶり」を測定するのに最適の検査と言われている。その結果、心拍数は、短時間(2分間の暗算)のストレス負荷時とは逆に低下した。また、心拍間隔変動のパワースペクトル解析によって得られるLF/HF値(LF=低周波成分=交感神経系成分、HF=高周波成分=副交感神経成分)も、一般に興奮で増大、リラックスで減少するといわれているが、クレペリンテストでは減少した。今後検討を続け、クレペリンテストにおける心拍解析によるストレス強度評価系を確立したい。
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