喫煙により肺胞マクロファージのO_2^-産生が増強されることから、肺胞マクロファージの遺伝子(DNA)損傷と染色体異常に及ぼす喫煙の影響について検討した。喫煙により肺胞マクロファージのDNA損傷が認められ、また染色体異常も引き起こされていた。染色体の異常は、全ての染色体で異常部位が認められた。異常部位から、43000個の遺伝子について検討したところ、異常の認められた総遺伝子数は280遺伝子で、非喫煙に比べて、2倍以上の遺伝子発現の増加が認められた遺伝子数は127個、2倍以上減少した遺伝子数は153個であった。特に、喫煙により影響を受けた遺伝子の中で、発現が増加した遺伝子はケモカインに関する遺伝子で、逆に減少した遺伝子は、接着分子及びプロスタサイクリン合成酵素の遺伝子であった。また、肺組織のDNAでは、発癌と密接に関連した8-OHdGの増加が喫煙により認められ、その発現は細気管支の粘膜上皮細胞に認められた。これらの成績より、喫煙による肺胞マクロファージの免疫機能の抑制機構は、O_2^-からH_2O_2を経て生じたOHによりDNA損傷が引き起こされ、抗原提示分子の発現、サイトカインの産生の抑制が生じた結果による可能性が示された。これらの機能抑制とタバコ煙による肺胞マクロファージから過剰に産生された活性酸素による8-OHdGの生成の増加が、肺癌の発生にも関与していることが示唆された。また、タバコ煙による肺胞マクロファージの免疫機能の抑制はB細胞の初期段階に影響を及ぼし、その結果抗体産生を抑制し、易感染性を増加させる可能性が示唆された。
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