研究概要 |
ヒト本態性高血圧症と関連侯補遺伝子群をもつ脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)モデルを用いて、脳卒中発症に対する運動習慣や運動療法の有効性とその作用機序について検討した。雄性SHRSPを高血圧発症前の6週齢より2ケ月間、運動量測定器付回転ケージを使って自発的な運動をさせた。運動期間中、神経症状の観察および血圧、体重等を測定した。実験終了後、安楽死させ、血清、尿、大動脈、心、脳を採取し、以下の病理学的、生化学的検討を行った。自発運動群は、非運動群と比し、収縮期血圧のわずかの低下を認めるのみであったが、脳卒中発症率の有意な抑制と著明な延命効果を認めた。運動による血管保護に係わる標的分子を明らかにするために、内皮型NO合成酵素(eNOS)活性化と酸化ストレス制御について検討した。運動群血管では、Akt-eNOSの活性化ならびにNO産生量の増加、NADPHオキシダーゼ活性の抑制が認められた。さらにL-アルギニンおよびL-NAME投与をおこなうことにより、運動の標的分子としてNO増加による脳卒中発症抑制効果を確認した。また運動群では、血漿中のsoluble ICAM-1,MCP-1,TNF-α,TGF-βレベルは減少し、血管リモデリングの指標となるエラスチン/コラーゲン比の有意な増大と中膜平滑筋肥厚の抑制が観察された。また脳病変部の炎症細胞浸潤の減少と限局化が認められた。血管組織リモデリングおよび炎症性サイトカインやケモカイン産生に関与する情報伝達系ならびに転写因子を検討した結果、運動によりMAPキナーゼ系-ERK1/2,P38MAPK,JNKの抑制ならびにレドックス感受性転写因子のc-Jun,c-Fos,NF-kBの活性化が抑制されることが明らかとなった。これらの結果は、運動習慣により血圧とは独立して、炎症反応の抑制を介して脳血管障害をコントロールできる可能性を示唆した。運動によって増加した血管内皮由来NO産生は、酸化ストレスを減少させ、レドックス感受性転写因子を抑制して、脳血管arteriosclerosis抑制効果をもたらしたものと考えられた。
|