研究初年度にあたる本年度は、「生命系・共生型コミュニティ」の概念および成立条件について明示化を図るとともに、開始されたばかりの「国連・持続可能な開発のための教育の10年」(「教育の10年」と略)についての国内外の動向把握およびアンペイド・ワークとジェンダーに関する情報収集に努めた。 まず丸山が、カール・ポランニー、玉野井芳郎、イヴァン・イリイチの今日的意義と課題についてまとめ(エントロピー学会にて報告)、自然環境と共生しながら自立する地域経済や非市場経済下におけるサブシステンスの重要性を明らかにした。松葉口は、こうした視点から「開発」「教育」といった概念そのものを問い直しつつ作業を進めることの必要性を確認したうえで、サブシステンスと「開発」「教育」との連関についての典型的事例として、パーマカルチャーでも有名なオーストラリアのマレニーおよびその近郊にあるシェバランを調査し、経済面では、地域通貨、クレジット・ユニオン、生協などのオルタナティブ的経済が上手く機能している点、教育面では、コミュニティ・ガーデンの試みで環境教育賞を受賞した公立小学校が革新的な総合学習により地域の中核となっている点、双方が有する生態系への配慮やアンペイド・ワーク解消機能など、「生命系・共生型コミュニティ」の成立に不可欠な条件を明らかにした。また、「教育の10年」や「持続可能な消費(と生産)」などのプロジェクトが国際的に進展していることも確認でき、これら関係者と今後も情報交換を行うことを合意した。 当初、岩手県内の地域通貨「わらび」の調査を実施する予定であったが、町村合併に伴う事務所合併問題等により先方事務局の体制が整わないことから、今年度は丸山による予備的調査にとどめ、本格的調査については新事務局によりさらに強化体制で取り組むという次年度に行うこととした。
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