本研究の目的は、持続可能な社会の実現に不可欠である生命系・共生型コミュニティの形成をめざすうえで最も課題となると思われるアンペイド・ワークとジェンダーという問題を解決するために地域通貨に着目し、その事例から今後の方策を見出すことである。それはまた、2005年から開始されている「国連持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」および1995年の北京女性会議以降重要視されているアンペイド・ワークへの着目への貢献という意義を有する。研究成果としては、まず「ESDの10年」を提唱した日本の歴史を振り返り、戦後の高度経済成長と教育重視政策の背景に内在していた性別役割分業の体制化とサブシステンスの崩壊という側面を、アンペイド・ワークの問題と絡めて省察的に捉えることの重要性について、とりわけ途上国でのESD実践への示唆として整理した。次に、コミュニティにおける地域通貨の意義について、経済人類学の立場から明示すると同時に、貨幣の意味そのものを問う教育的側画について、センのケイパビリティ理論の援用とジェンダーの視点から明示した。地域通貨の事例調査の結果、老舗の地域通貨「おうみ」の活動休止が象徴するように、地域通貨は一時期の盛り上がりから熟慮の段階に入ったといえるものの、フォーマル(商工会・行政)型=男性主導型/インフォーマル(相互扶助)型=女性主導型の傾向を見出すことができた。最終的に、生活綴方に通底するオルタナティブな教育実践と地域通貨の結びつきを確認することができ、その共通部分の重要性について提示した。
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