本年度の研究は、着脱動作の身体に与える負担の評価方法の確立を主たる目的とした。 衣服着脱動作が身体に与える負担の評価方法として着脱時間、動作解析、官能検査および心拍計測を取り上げた。 被験者は、基本データの採取対象として健常な女子学生30名、着脱困難な対象として運動機能に障害のある男子1名とした。実験服は、基本データ採取の実験にあたっては、織布によるかぶり型長袖上衣とした。この実験の成果としては、着脱パターンに多様性があり、着衣は2種、脱衣に3種あることが確認できた。また、これらのパターン間には、パターンを選択する要因に身体の柔軟性との関連が見られるほか、動作に要する時間的負担、頭頂点を基点とした身体の振動範囲、姿勢変化、心拍増加率に差異が見られた。身体の柔軟性の違いによる官能検査結果と評価指標による値との一致性は見られず、日常的な慣れが官能評価には影響することが示唆された。運動機能に障害がある男子1名については、編布によるかぶり方長袖上衣を実験服とし、基本形と着脱しやすく修正した比較服間の心拍変動スペクトルの差異、および健常者との心拍スペクトルの比較から評価方法の有効性を検証した。その結果、運動機能に障害がある人のR-R間隔、LF値、HF値が健常者よりも小さいこと、LF値/HF値は健常者より大きいことが明らかになったが、修正の有無による着易さの評価は官能検査結果とLF値/HF値の傾向と一致し、心拍変動スペクトル解析による評価の有効性が示唆された。運動機能に障害がある人の着脱動作上の問題点把握については、具体的に衣服の着脱改善を目的とした修正例を提示し、介助者および着用者の面接調査を進めている。
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