本年度の研究は、昨年度確立した評価方法を用いて、衣服を修正することによる着脱動作の負担軽減効果を実証することとした。 実験方法は、出生児障害によるアテトーゼ型脳性マヒの18歳男子1名を被験者として着用実験を行った。被験者は両腕にマヒがあるため、日常的な上衣の着衣では肘を通す動作に強い困難がある。そのため、かぶり型の長袖Tシャツは、伸縮性があるメリヤス素材のものでも着にくいと評価していることから、これを本実験の試験着の基本形(A)とした。これに脇下から袖にかけて襠をいれてアームホールにゆとりを加えた修正服(B)と後ろ身頃に袖付け腋下位置よりも下方になる長さのファスナー明きを施した修正服(C)の2種の修正服を実験服とした。被験者は下胸囲に心拍計を装着し、それぞれの実験服着衣時のR-R間隔の心拍計測を行った。着衣動作は介助者により行い、被験者は官能検査による着にくさの判定を行った。 その結果、修正を加えない実験服Aは修正を加えた2種の実験服に比べ、官能検査において着にくいと判断され、心拍変動スペクトル解析においても着衣後1分にLF/HFが上昇し、HF/TPが低下する傾向が確認された。これは、健常者における着にくい服による実験結果と一致しており、修正服が着衣動作における身体的・精神的負担を軽減することをHRVスペクトル解析によって評価できることが実証されたものと考える。 本研究で用いたR-R間隔の測定は、被験者の負担も少なく操作も容易であるため、脳性マヒ患者を対象とした生理的負担を測定する方法として適したものと考える。また、これによって、運動機能に障害がある人が着衣するときの困難さを数値化することが可能になれば、健常者が理解しにくい障害による着衣の困難さに対する理解を深める上で有効であると考える。
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