健康・快適・安全な衣服設計の観点から、172nmのエキシマ紫外光を用いて合成繊維製品の親水化を試みた。まず、水晶振動子上にモデル高分子膜(ポリエチレン、ナイロンおよびアセテート)を作製し、洗浄性評価を試みた。高分子膜に高級脂肪酸を付着させ、水溶液中での脂肪酸の脱離現象を水晶振動子の周波数変化から追跡したところ、得られた結果は汚れ-高分子膜間への洗浄液の浸透に伴う自由エネルギー変化で説明できた。また、水/エタノール混合液中でのモデル高分子膜に対するポリマー粒子の付着現象を調べたところ、エタノール濃度が増すと付着量が激減する傾向が認められ、この結果は粒子-高分子膜間の相互作用の大きさとよく対応した。次に、上記のポリエチレン膜に紫外光照射を行ない、照射前後の膜の水分特性、汚染性や洗浄性を追跡したところ、紫外光処理効果を定量的に把握できることが示された。市販高分子フィルムを用いた実験でも、紫外光処理効果が検証できた。 次に、アセテート、ポリエステル、ナイロン、アクリルおよびポリプロピレンの各布に紫外光照射を行ない、実用性能の変化を調べた。照射後の表面反射率および引張特性の変化は殆どなく、布の劣化が起こらないことが確認された。また、単繊維に対する水の接触角を測定した結果、紫外光照射により繊維表面の親水化が起こっていることがわかった。表面分析を行なった結果、ポリエステル繊維の表面酸素濃度と表面の凹凸が増大することがわかった。このような繊維表面の変化は布の吸水性や吸湿性の増大をもたらすことが確認された。ポリエステル布にカーボンブラック汚れを付着させ、界面活性剤水溶液中での汚れ除去率を表面反射率法で評価したところ、紫外光照射により除去率が増大することがわかった。また、分散染料でポリエステル布を染色したところ、紫外光照射後に発色性が向上するという結果が得られた。このように布を用いた実験でも紫外光処理の有効性が示された。
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