研究概要 |
○いくつかの文献から,現存する型染の中で最も古い衣服は、東京国立博物館蔵の二本傘文様素襖(室町)であると思っていたが,調査した結果,これは,糊防染ではあるが,筒描き(手描き)による型染であることが判明した。染型紙を用いた型染として,現存する最も古い衣服は,室町時代の上杉謙信所用の帷子である。山形県米沢市の上杉神社に伝わる紋付き小紋帷子である。 〇三重県鈴鹿市にて白子の伊勢型紙資料館へ出向く。鈴鹿市文化振興部文化課の宮崎哲郎氏立ち会いの下,文化財である伊勢型紙を数百枚撮影する機会を得た。伊勢型の特徴は,緻密で繊細で,伊勢型紙そのものに芸術性を帯びた作品として成り立っているが,元々は,染柄として彫られた染型紙であり,今でもそのことには変わりはない。 ○又,その資料館で伊勢型紙保存会会長(彫師)の方とお会いすることができ,その結果,紅型の「糸かけ」と伊勢型の「糸入れ」は同じものであると解釈していたことの誤りに気づく。 ○沖縄県立首里高等学校染織デザイン科へ赴き,紅型の授業を参観して,小・中・高等学校で,地域教材として,伝統工芸を生かした授業を展開してみる価値を見出した。 ○知念紅型工房へ再び訪問し,今回は,知念績元氏にお目にかかれ,直接教えをいただいた。「糸かけ」の出来る唯一の名匠である。 ○紅型の三宗家(沢砥,城間,知念)のもう一人の城間紅型工房へ出向く。城間栄順氏の「松にかかりたる藤の文様」があり,撮影許可をもらう。 ○清少納言の「枕草子」に,"めでたきもの"として『花房長く咲いた藤の,松にかかりたる・・』のくだりがある。紅型の文様に表現されており(富士栄1999),沖縄の紅型が平安時代の本土文化の影響を受けている点で,極めて興味深い文様である。琉球舞踊古典女踊り衣裳に使われている。 ○首里城にて琉球舞踊「柳」の舞を撮影することができた。その衣裳の紅型の文様にも,この「松にかかりたる藤」の文様が使われている。 ○紅型,伊勢型,会津型の三者を比較すると,それぞれの美意識は,「色の紅型,粋な伊勢型,純な会津型」にまとめられる。
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