本研究は、1990年頃から個人を中心とする家族生活が顕著になってきたという社会背景の変化が居住形態に及ぼす意味を明確にするとともに、今後求められる居住形態と住宅形態の課題を抽出することに目的がある。そのために既往研究の検討、および統計による実態把握と個人化のわかりやすい典型である単独世帯について、とりわけ地域的分布と、居住実態についての分析を行った。次の点を明らかにした。 1.個人化傾向の位置づけ: 既往研究を検討し、今日の個人化現象が新しいライフスタイルの出現を積極的にとらえるという側面だけでなく、「下流社会」に典型的に表されるように、社会的・経済的要因を背景とする問題ある側面をも示していることが明らかにした。 2.個人化と単独世帯増加の実態: 国勢調査の分析により、単独世帯が増加するとともに、未婚率が上昇していることを確認した。さらにその傾向が東京都などの都市圏において著しいことを具体的に示した。 3.単独世帯の分布: 単独世帯の分布が年齢によって異なり、20歳代の若年層は郊外部に、30歳前後からは都心へのアクセスの便利な地域に分布することが明らかにした。大雑把には、若年ほど就学・就業の施設との関係が、年齢が上がるほど都心へのアクセスが重視される傾向を確認した。 4.特性地域の類型: 単独世帯の分布には、いくつかの傾向のあることを明らかにし、次のライフスタイルから次の類型を設定した。すなわち、(1)都心型(都市性を享受)、(2)都心周辺型(都市性を部分的に享受)、(3)アクセス利便型(都心アクセスの利便性を指向)、(4)施設利便型(学校や職住関係を指向)、(5)個別要因型であり、これらの類型の要因として、都心や都市性の強度、都市施設や用途、住宅の種類や水準と、密度など居住環境があり、これらとの強い関係のもとで特徴的なライフスタイルが形成されていることが想定できた。
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